むかし、むかし、あるところに、 彦一(ひこいち)という、 とんちの上手な男の子がおりました。 ある日のこと、彦一が山を歩いておりますと―― どこからか、ざわざわと風が吹いてきました。 見上げると、そこにいたのは、 赤い顔に、なが〜い鼻の、天狗(てんぐ)さまです。 天狗は手に不思議な蓑(みの)を持っておりました。 天狗「ふっふっふ。これはな、"隠れ蓑"(かくれみの)という宝物じゃ。 この蓑をかぶると、姿がすうっと消えてしまうのじゃぞ!」 彦一はその話を聞いて、 目をきらきらと輝かせました。 彦一「へえ〜! それはすごいなあ……」 (心の中で、ぴかっと、よい考えがうかびました。)
彦一は足もとに落ちていた竹の筒を拾い上げ、 めがねのように目に当てました。 彦一「おお〜っ、見える、見える! 遠くの山も、町のようすも、 このめがねでなんでも見えるぞ!」 天狗はびっくりして、身をのり出しました。 天狗「なんと! そんなすごいめがねがあるのか! のう彦一、わしの隠れ蓑と その遠めがねを取りかえてはくれまいか?」 彦一は、にやりと笑いをこらえて、 彦一「え〜、これはだいじなめがねなんだけどなあ……。 まあ、天狗さまがそこまで言うなら、 しかたないなあ。取りかえてあげましょう。」 こうして彦一は、ただの竹の筒と引きかえに、 見事に隠れ蓑を手に入れたのでございます。 天狗は竹の筒をのぞいて「なんにも見えんぞ……」 と首をかしげておりましたとさ。
隠れ蓑を手に入れた彦一は、 うれしくてうれしくてたまりません。 さっそく蓑をかぶって―― すうっと、姿が消えてしまいました。 彦一は町へ出かけて、いたずらのし放題です。 和菓子屋さんのおまんじゅうを、ぱくっ! お店の人「あ、あれ? おまんじゅうが減っていく! だ、だれの仕業じゃ〜!」 道を歩くおじさんの背中を、つんっ! おじさん「うひゃあ! な、なにもおらんのに! き、きつねにばかされたか〜!」 町の人たちは「おばけだ!」「ゆうれいだ!」と 大さわぎ。 彦一はおなかをかかえて、 「あっはっは!」と笑いころげました。 まあ、なんとおちゃめな彦一でしょう。
さて、毎日いたずらを楽しんでいた彦一ですが、 ある日のこと―― 遊びに出かける前に、 隠れ蓑を囲炉裏(いろり)のそばに、 ぽいっと置いたまま出かけてしまいました。 おかあさんはそれを見て、 おかあさん「あらまあ、こんなぼろぼろの蓑、 だれが持ってきたのかねえ。 いらないから燃やしてしまいましょう。」 そう言って、ぽいっと囲炉裏の火の中へ。 蓑はめらめらと燃えて―― あっという間に、灰になってしまいました。 遊びから帰ってきた彦一は、それを見て、 彦一「ああ〜っ! おかあさん! それは隠れ蓑だったのに〜!」 おかあさん「え……あらまあ、知らなかったよ。 ごめんねえ。」 もう泣いても叫んでも、蓑はもどりません。 こうして、彦一のゆかいないたずらの日々は おしまいになりましたとさ。 でもね、村の人たちは今でもこう言います。 「あのころの彦一のいたずらは、 おかしくて、おかしくて、楽しかったなあ」と。 めでたし、めでたし。